撮影技術Point7 シズル感の演出
広告目的の料理写真では、温かい料理から立ち上る湯気、鍋料理の泡立ち、キンキンに冷えたドリンクの水滴などシズル感を演出するものもの多くが、人為的に作られたり強調されて表現されていることをご存知でしょうか?湯気は普通に撮影したのでは、なかなか写ってはくれません。鍋料理のように炊きながらの撮影ではさほど苦労はしませんが、器に盛られた料理では思うように撮れません。部屋の温度を下げるのはもちろんですが、料理をできるだけ温かい状態に保たなければなりません。うどんの撮影では、だし汁が冷めないように熱く熱した碁石をどんぶりの底に忍ばせたりします。その上で「湯気出しのライト」を使って湯気を強調してやります。最近では、湯気を作るキットを使ったり画像処理で湯気を付け加えたりもしますが、冷めた料理にこれらを施してもシズル感のある写真にはなり得ないことは言うまでもありません。
また、鍋料理では泡が思いどうりの位置に十分立つように、ざる等を用いて上げ底をした上で泡の通り道を空けてやったりもします。冷えたドリンクの水滴は、蒸発しないようにまた理想的な水滴の形になるようにグリセリンを混ぜた水をスプレーしつくりだします。氷に至っては、形がよく融けても形が変わらないようにアクリル製のつくり物だったりします。
ここまでくると、「何でもあり?」という話になりますが、シズル法の目的とするところは、視覚に訴えて食欲のスイッチを入れることです。この目的にかなった写真は、見ただけで我々のさまざまな感覚すなわち、味・温かさ・香り・音を呼び起こします。しかし、出来立ての美味しそうに盛られた料理をそのままに撮影したのでは、食欲のスイッチを入れるにはそのシズル感が不十分であることも多いのです。そこでより”らしさ”を演出することになります。小道具・背景を用いて場の雰囲気を、温かい料理は湯気を写してその温かを、冷たくて美味しいものは水滴を見せてその冷たさを、鍋料理の泡立ちでグツグツという煮え立つ音・油のはねや立ち登る煙でジュージューというステーキの焼ける音までを表現しようとします。その結果、味や香りまで伝えることができ食欲を呼びおこすことができるのであれば、”らしさ”を演出するノウハウを持つことはプロとして当然のことです。
以上シズル感を演出するためのノウハウの一部をご紹介しましたが、シズル法にとってより大事なポイントは”料理・食品は常にできたて・食べごろを撮らねばならない。”ということです。それには、撮影する場所と調理する場所が近くなくてはなりません。キッチンの完備されたスタジオや厨房に隣接した部屋で撮影を行うことになります。また本番前に、構図・小道具や背景・照明などを検討するために、本番用の料理とは別に本番用に限りなく近い”ダミー”の料理も用意する必要があります。本番まえの諸々の検討するには時間が必要で、その間に料理はくたくたになってしまうからです。準備万端整ったところで、本番用の料理に差替えるという手順を踏みます。メニューブック用の撮影等、一品一品ダミーを用意するのは無理かもしれません。せめてイメージカットだけでもダミー料理をご用意して頂けたら幸いです。
ここまで、撮影技術から見た業者選びのポイントを述べてきましたが、シズル感の演出には照明技術・ライティングが大きく関わっていることが理解いただけたと思います。いくらうまく調理され盛り付けられた料理でも下手な照明が全てを台無しにします。もちろん、料理撮影においては照明技術以外にもさまざまなノウハウが必要ですが、せっかくの美味しい料理を生かすも殺すも一義的には照明技術・ライティングであるとゆうこと念頭に置き撮影業者を選んでいただければと思います。
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